アメリカ人の物語

2017年1月20日金曜日

トランプ大統領就任演説全訳

約16分間~18分間、音声を聞いて翻訳。訳注付き。ホワイト・ハウスが正式な原文を公開している。

《総評》

 歴代アメリカ大統領の就任演説の中で採点すれば辛うじて及第点。採点のポイントはどこにあるのか。
 
 全体的に過去の先例を踏まえて無難にまとまっている。意外と大人しくツイッターのような攻撃的な発言はない。逆に大人しい内容でトランプ節がない。優等生の殻を被ったような感じ。
 ワシントン政界批判は、同じような状況にあったアンドリュー・ジャクソンと比べても激しい。歴代アメリカ大統領の就任演説の中ではその点に関しては異例と言える。ただこれまでと違って分断を煽ることはなく連帯を訴えかけている。そこは評価される。
 政権の方針についてこれまで主張してきた点を繰り返している。既定方針の再確認であり、目新しい点はない。歴史に残る名言もない。
 
 アメリカ大統領は、就任演説においてアメリカの根底にある普遍的価値観、すなわち自由や民主主義といった価値観を自分なりに再定義して国民に示さなければならない。アメリカという国がどのように成立したか深い洞察が必要となる。残念ながらトランプの就任演説には深い洞察が窺われず、自由や民主主義といった普遍的価値観を独自に再定義もしていない。時代に沿った新たな価値観をアメリカの伝統的な価値観に加える就任演説こそ最も高く評価される。トランプが掲げる「アメリカ第一主義」は、時代に沿った新たな価値観になり得るのだろうか。
 ワシントン政界批判は意味がない。なぜならこれからトランプ自身が「ワシントン政界」に入るからだ。かつてオバマはワシントン政界の外部者であることをアピールして予備選挙を勝ち抜き本選でも勝利した。その点はトランプも同じである。
 また就任演説では、「We」、「They」、「I」などの人称をどのように効果的に使うのか注意しなければならない。「We」を多用すれば、大統領と国民の一体感を示しやすい。しかし、「They」を多用すれば、一体感を示しにくくなる。トランプの就任演説では、人称の使用に混乱が見られる。この点は大幅な減点になる(全訳の訳注参考)。
 他にも気掛かりな点がある。演説は内容に加えてデリバリー能力(実際に話す能力)が必要。以前よりも声音が少し弱く迫力に欠ける点がある。

 一部メディアは、トランプの就任演説に示された内容についてすぐに事実確認を行っているが、それはあまり意味がない。なぜならアメリカ大統領という存在は、今、アメリカ国民が置かれている状況や危機を定義する存在だからである。
 すなわち、危機は最初から存在しているのではない。危機は定義されて初めて存在する。アメリカ大統領は状況や危機を定義し、それに基づいて政策を決定する。キューバ危機をめぐるケネディ大統領の対応を見ると分かるように、状況や危機の定義そのものが正しいかどうかは実はあまり問題とはならない。

目次

冒頭の挨拶
権力を人民へ
アメリカ第一主義
アメリカを再び偉大に

冒頭の挨拶


 最高裁長官ロバーツ、カーター大統領、クリントン大統領、ブッシュ大統領、オバマ大統領、同胞のアメリカ人たち、そして、世界の人々へ、ありがとう。

 我々、アメリカ市民は、我が国を再建して、我が人民すべての約束を取り戻すという大いなる国民的努力に今まさに身を投じようとしている。

 一緒になって我々は、今後、数年間のアメリカと世界の方針を決める。

 我々は試練に直面している。我々は困難に立ち向かわなければならない。しかし、我々はきっとやりおおせるだろう。

 四年に一度、我々はここに集まって秩序正しく平和な権力の移譲を行う。我々は、政権移行中のオバマ大統領とファースト・レディのミシェル・オバマの協力に感謝する。彼らは素晴らしい。

権力を人民へ


 今日の就任式は特別な意味を持っている。なぜなら今日、我々は前政権から新政権へ、もしくはある政党から別の政党へ権力を移行させるだけではなく、ワシントン政界からあなたたちアメリカ人民へ権力を移行させるからだ。

 長い間、我が国の連邦議会議事堂にいる少数の者達が政府の恩恵を独占し、その一方で人民は負担を強いられてきた。
 ワシントン政界は栄えたが、人民はその富を共有できなかった。
 政治家は潤ったが、雇用は減り、工場は閉鎖された。

 既得権益層は自分達は自分達を守るばかりで我が国の市民を守らなかった。

 既得権益層の勝利はあなたたちの勝利ではない。既得権益層の成功はあなたたちの成功ではない。そして、我が国の連邦議会議事堂で既得権益層が陽気に浮かれ騒ぐ一方で、我が国の至る所にいる苦闘する家族は浮かれ騒ぐことなどほとんどなかった。

 今日はあなたたちの日だ。今日はあなたたちの祝いの日だ。

 そして、アメリカ合衆国はあなたたちの国なのだ。
 
 本当の問題は、どちらの政党が政府を支配するかではなく、人民が政府を支配するか否かなのだ。
 
《訳注》

この部分はレーガンを彷彿とさせる。

 2017年1月20日は人民が再びこの国の支配者となった記念すべき日として記憶されることになるだろう。

 我が国の忘れられた人々はもう忘れ去られることはない。

 誰もが今、あなたたちの言うことに耳を傾けている。

 あなたたちは、これまで世界が見たことがないような歴史的な変革の一翼を数千万人単位で担おうとしている。

 この変革の中核をなす信念がある。すなわち国家はその人民に奉仕するために存在するということだ。

《訳注》

この部分はセオドア・ルーズベルトの「大統領は人民の世話役」を彷彿とさせる。

 アメリカ人は子供たちのために良い学校、家族のために安全な近隣、そして、自分達のために良い雇用を求めている。

 それは立派な人々の公正で筋が通った要求である。

 しかし、多くの市民はまったく異なる現実に直面している。母親と子供たちは中心市街地で貧困に陥っている。錆び付いた工場は墓石のように我が国の風景に広がっている。教育制度に投資がなされているが、若く優秀な学生達から学ぶ機会を奪っている。そして、犯罪とギャングと麻薬が多くの人命を奪い、我が国から将来の可能性を奪っている。

 こうしたアメリカの修羅場はここですぐに止めなければならない。

 我々は一つの国民だ。そして、国民の痛みは我々の痛みだ。国民の夢は我々の夢だ。そして、国民の成功は我々の成功だ。我々は一つの心、一つの家、そして、一つの栄光ある運命を共有している。

 今日、私が行った大統領宣誓は、すべてのアメリカ人のために捧げた宣誓である。

《訳注》

この部分は少し違和感を覚える。どう解釈すればよいか悩むからだ。もしかすると私が深読みし過ぎているかもしれない。

ホワイト・ハウスの正式な発表では原文は以下の通り。

We are one nation – and their pain is our pain.  

解釈A

我々は一つの国民だ。そして、国民の痛みは我々の痛みだ」

まず「Their」とは誰を指すのか。前にある「多くの市民many of our citizens」を指すと考えると、ほぼ「国民」と同じ意味になる。そして、後ろの「our」はトランプ政権のことに言及しているのではないか。

なぜそのように言えるのか。就任演説だと「We」を「国民」もしくは「人民」と見なすのが普通だが、全体的にトランプの就任演説に登場する「We」は「国民」を指すだけではなく、場合によっては「トランプ政権」を指しているのではと思えてしまう。

このように考えると、この部分はトランプ政権が国民とともにあるというアピールではないか。

解釈B

我々は一つの国民だ。そして、彼ら(母親、子供達、若者達)の痛みは我々の痛みだ」

こちらの訳のほうが普通だと言える。つまり、We=our=「国民」という図式になる。ただ先述のように「We」が誰を指すのか曖昧な点が問題となる。もちろん普通に解釈すればWe=our=「国民」という図式なのだが、全体の流れからすると単純にそうなのだろうかという疑問が残る。

全体的に「I」、すなわち大統領自身ではなく、「we(トランプ政権)」として言っているような印象を受ける。そもそも就任演説は、大統領とアメリカ国民の契約という意味合いが強い。もしトランプが「ワシントン政界の外部者」という立場を貫こうとするなら「We」ではなく「I」と言わなければならない。簡単にまとめれば、ツイッターと違って「I(俺)」色が薄い。

アメリカ第一主義


 数十年にわたって我々は、アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を栄えさせてきた。

 我々の軍隊を悲惨な状態に置きながら他国の軍隊を助成してきた。
 
 我々は我が国の国境を守らずに他国の国境を守ってきた。

 そして、アメリカのインフラが朽ち果てているのに、海外で数兆ドルを使ってきた。

 我々は、我が国の富、強さ、そして、自信を喪失させながら他国を富ませてきた。

 工場は次々に閉鎖され、多くのアメリカの労働者のことなどまったく考えずにアメリカを出て行った。

 中産階級の富は彼らの家庭から流出して全世界に再分配された。

 しかし、それはもう過去のことになる。そして、今、我々は未来だけを見ている。

 今日、我々はここに集まってあらゆる街、あらゆる外国の首都、そして、あらゆる権力の殿堂に響かせる新たな教えを発表する。

 今日から我が国を動かすのは新しいヴィジョンだ。

 この瞬間からアメリカ第一主義だ。

 貿易、税制、移民、外交に関するすべての決定はアメリカの労働者と家族に有利になるように行われる。 

 我々は、我々の製品を作り、我々の企業から盗み、そして、我々の雇用を破壊しようとする他国から国境を守らなければならない。保護貿易こそ大いなる繁栄と強さに繋がる。

《訳注》

TPPの離脱を示唆。すぐにホワイト・ハウスが正式にTPP離脱を表明

 私はあなたたちのために全身全霊で戦う。そして、私はあなたたちを決してがっかりさせない。

 アメリカは再び勝利する。これまでにない勝利を収める。

 我々は雇用を取り戻す。我々は国境を取り戻す。我々は富を取り戻す。そして、我々は夢を取り戻す。

 我々はこの素晴らしい国中に新しい道や高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道を築こうとしている。

 我々は、人民に福祉についてばかり話すことを止めさせ、アメリカ人の手で我が国を再建するという仕事に戻らせる。

 我々は二つのシンプルなルールに従う。アメリカ製品を買え。アメリカ人を雇え。

《訳注》

これまで言ってきた主張と同じで目新しい言葉ではない。全体的にこの就任演説ならではと呼べる特徴的なフレーズがない。

 我々は世界の国々との親善を求めている。しかし、我々は、すべての国々がそれぞれの利益を第一に置く権利を持つという理解の下、親善を求める。

 我々は、誰かに我々の生き方を押し付けようとするのではなく、すべての者たちが模範にするような生き方をしたいと思う。

 我々は古くからの同盟関係を強化するだけではなく、新しい同盟を形成して文明世界とともにイスラム過激派のテロリストに対抗する。我々はイスラム過激派のテロリストを地球上から完全に根絶する。

 我々の政治の基本原則は、アメリカ合衆国に完全に身を捧げることであり、我が国への我々の献身を通じて我々は相互信頼を取り戻す。

 愛国主義に心を開く時、偏見が入る余地はない。

 聖書は『神を信じる人々が連帯することこそ最高の愉楽である』と我々に教えている。

 我々は心を開いて話し、率直に合意できない点を議論しなければならない。ただし常に団結を追求しなければならない。

 アメリカは一つにまとまりさえすれば、誰にもアメリカは止められない。

 恐れるべきではない。我々は守られている。常に守られている。

 我々は偉大なる軍人達、警察関係者、そして、最も大切な神によって守られている。

アメリカを再び偉大に


 最後に、我々は大きく考えて夢を大きく持たなければならない。

 アメリカにおいて我々は、努力しなければ国家は存続できないのだと理解している。

 我々は、たた喋るだけで行動しない政治家を認めない。ただ不満を言うだけで何もしない政治家を認めない。

 空疎なお喋りの時間は終わりだ。

 今こそ行動の時だ。

 そんなことはできないと誰にも言わせるな。アメリカ人の心と挑戦と精神が克服できない困難などない。

 我々は失敗しない。我が国は再び繁栄するだろう。

《訳注》

この部分は、フランクリン・ルーズベルトの1933年の就任演説を参考にしていると考えられる。

 我々は新しい千年紀の誕生に立ち会っている。宇宙の謎を解明し、地球を疾病から解放し、未来のエネルギー、産業、技術を利用しようとしている。

《訳注》

この部分はケネディのニュー・フロンティアを彷彿とさせる。

 新しい国家の誇りは、我々の魂を鼓舞し、我々の見識を高め、我々の分裂を癒やす。

 我々の兵士が忘れ去られず、人種を問わず我々にはすべて愛国者の血が流れ、我々すべてが同じ栄光ある自由を享受し、そして、我々すべてが同じ偉大なるアメリカ国旗に敬意を払うことを銘記すべき時だ。
 
 デトロイトの郊外やネブラスカの広大な平原のどちらに生まれようとも、子供たちは同じ夜空を見上げ、同じ夢で心を満たし、全能なる創造主によって生命の息吹を得ている。

 それはすべてのアメリカ人にとって同じだ。近くにある街も遠くにある街も大きな街も小さな街も山から山へ、海から海へ以下の言葉を響かせよう。

《訳注》

この部分はアメリカの植民地時代に使われていた"From sea to shining sea"という表現や自由の鐘に刻まれている「Proclaim LIBERTY Throughout all the Land unto all the Inhabitants」を彷彿とさせる。

 あなたたちはもう決して無視されることはない。

 あなたたちの声、あなたたちの希望、あなたたちの夢が我々のアメリカの運命を決める。そして、あなたたちの勇気と善と愛が永遠に我々の導き手になる。

 ともに我々はアメリカを再び強くする。

 我々はアメリカを再び豊かにする。

 我々はアメリカを再び誇らしくする。

 我々はアメリカを再び安全にする。

 そして、もちろん我々はともにアメリカを再び偉大にする。

 ありがとう。あなたに神の祝福があらんことを。神の祝福がアメリカにあらんことを。

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